平成29年度 税制改正
1.大綱の発表
昨年12月8日に平成29年度の税制改正大綱が発表されました。
今後、通常国会での審議を経て、平成29年4月1日より施行される予定です。
税制改正は毎年行われていますが、今後の経済活動や税金対策の方向性の決定において非常に重要なものです。
2.平成29年度税制改正 概要
今回の税制改正は、近年の流れをくむ形で個人増税・法人減税を進めるものとなっています。個人に対しては、特に富裕層への課税強化として相続税の改正案が盛り込まれています。法人に対しては、デフレ脱却・景気回復の観点から、特に中小企業向けの減税案が打ち出されています。
今回は、配偶者控除に関する改正についてご説明します。
3.配偶者控除に関する改正
①概要
昨年11月頃、「配偶者控除」廃止に関するニュースが話題となりました。しかし結局、廃止は見送られて「配偶者控除」の適用範囲の拡大という形で決着がつきました。
②配偶者控除の問題点
そもそも、「配偶者控除」とは夫婦共働きの世帯において、収入の少ない配偶者(年収103万円以下)がいる場合は、もう一方の所得の計算上「38万円」を控除するというものです。良くあるケースとしては、夫がサラリーマンで妻がパートをしている場合です。妻が年収103万円以下であれば、夫は「配偶者控除」の適用を受ける事が出来、夫の税負担が軽減されます。しかし、妻の年収が103万円を超えてしまうと夫の税負担が増えてしまう事となります。以前は、ここで世帯収入と税負担の逆転現象が起きていました。例えば妻の年収が103万円から104万円に増加する事により、夫の税負担が11万円ほど増えてしまい、世帯としての手取が逆に減少してしまうという事がありました。これが俗にいう「103万円の壁」と言われるものです。そこで数年前に「配偶者特別控除」が創設されました。これは、妻の年収が103万円を超えても年収141万円までは、段階的に夫の税負担を軽減するというものです。この制度の創設により税負担の逆転現象は起こりにくくなりましたが、妻が年収103万円~141万円の場合は結局のところ、世帯としての手取は大して変わらないというのが現状です。
現在夫婦共働きの世帯が増えている中で、この制度の存在自体が就労の機会を阻害しているのではという事は以前から指摘されていました。
③配偶者控除の改正
上記の問題点を受けて、昨年末に「配偶者控除」廃止論が取り沙汰されましたが、各方面との調整の末、「廃止」ではなく「適用範囲の拡大」という事で決着しました。
具体的には、次のとおりです。
・「配偶者控除(所得控除額38万円)」を適用する為の配偶者の年収要件
【現状】年収103万円以下 ⇒【改正】年収150万円以下
・「配偶者特別控除(所得控除額38万円~3万円)」を適用する為の配偶者の年収要件
【現状】年収103万円超141万円以下 ⇒【改正】年収150万円超201万円以下
この改正により、妻の年収が150万円までなら夫は今まで通りに「配偶者控除」を受ける事が出来、世帯の手残りは妻の年収増に応じて増加するよう調整が図られました。
尚、今回の改正に併せて、夫(妻)の年収が1,000万円を超える場合には、配偶者の年収に関わらず「配偶者控除」の規定自体を適用しない事となります。
これらの改正は平成30年分の所得税より導入される予定です。
4.社会保険に残る130万円の壁
今回の改正で、税務上は「103万円の壁」が「150万円の壁」へと広がりましたが、税務とは別に「130万円の壁」というものがあります。夫がサラリーマンで妻の年収が130万円以下の場合、妻は健康保険・厚生年金について夫の扶養に入る事が出来、妻は保険料を一切負担しないで済みます。しかし妻の年収が130万円を超えてしまうと妻は夫の扶養から外れるため、社会保険若しくは国保・国民年金に加入する事となり、最低でも20~30万円ほどの保険料が新たに発生する事となります。このため、妻の年収が130万円を超えると、逆に世帯としての手取が減少するという事が起こり得ます。
この問題については、社会保険制度の見直しという形で今後改正を進めていく方針を国が打ち出しています。
5.不動産オーナーへの影響
不動産管理会社を設立して配偶者に報酬を支払っている方、又は個人で不動産業を営みながら配偶者に専従者給与を出している方には影響があります。
今までは、税務面での扶養要件(年収103万円以下)を満たせば、自動的に社会保険の扶養要件(年収130万円以下)も満たしていました。しかし今回の改正で両者が逆転します。配偶者に支払う給与の額の決定にあたっては、加入している保険の内容(社会保険、国保、後期高齢者保険等)も考慮する重要性が高まりました。
お困りの際は、是非専門家の意見をご参考にされる事をお勧めします。