令和元年7月8日(月)、国税庁ホームページで「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」が公表されました。
これにより、令和2年4月1日以後の相続開始分から新設される配偶者居住権が、相続税の軽減に繋がることが判明しました。
そもそも配偶者居住権とは何か。
亡くなった方の配偶者が一番望むのは、自宅に引き続き住み続けることでしょう。夫が、自宅5千万円と現預金5千万円を遺して亡くなりました。相続人は妻と子。親子仲良しなら、妻(母)が全財産を相続することも可能です。しかし、仲が悪かったり、義理の親子だったりするとそうはいきません。妻が自宅を望めば、現預金は全て子が相続することになるでしょう。
法定相続分が1/2ずつだからです。「それでは今後の生活費が心配だ」と妻が現預金の相続を望めば、自宅は子が相続することになり、妻は自宅を出ていかなければならなくなります。
そこで、改正相続法により配偶者居住権という新たな権利の創設です。自宅の所有権を子に相続させ、妻には自宅に住み続ける権利だけを取得させることができるようになりました。自宅不動産の権利を「居住権」と「所有権」の二つに分けて、配偶者と子に各々取得させるという遺産分割の新たな選択肢が創設されたのです。
この配偶者居住権は一定の財産評価を受け、相続税の課税対象となります。評価方法は今年の税制改正で決定しており、当相続サポートセンターの相続レポートでも既にお伝え済みですので、ここでは詳細は省略します。
5千万円の自宅(建物+土地)の配偶者居住権の評価額が仮に2千万円だとすると、子が相続した「配偶者居住権付の自宅」の所有権は3千万円(5千万円-2千万円)です。配偶者は居住権2千万円に対して、子は居住権付自宅3千万円に対して相続税を負担します。
ただし、配偶者は「配偶者の税額軽減」の適用により、ほとんどのケースで結果的に相続税の支払いは免れます。
さて、この妻(母)が数年後に亡くなります(二次相続)。
配偶者居住権はその時点で消滅し、子は配偶者居住権の付いていない完全な自宅所有権を手にすることになります。売却も自由にできるようになり、売れば5千万円が子のものです。
一見すると妻(母)の死亡により子に経済的価値が移転したようにも思えますが、妻(母)が持っていた配偶者居住権は単に消滅しただけで子に移転するものはないと考え、相続税の課税は無し。そのことが、冒頭に記載した通達で明らかになったのです。
つまり、一次相続で父から子に直接自宅を相続させれば、子は5千万円に対する相続税負担となりますし、父から母(妻)に自宅を相続させれば二次相続時に子は母からその自宅を相続し同じく5千万円に対する相続税を負担することになります。
一方、配偶者居住権を経由すれば、子は一次相続時に3千万円に対する相続税を負担するだけで、二次相続時には何の税負担も無しで完全な自宅所有権を取得することができるわけです。
配偶者居住権は、どちらかといえばあまり仲の良くない親子や義理の親子間で活用するイメージが強かったかもしれませんが、仲の良い親子でも相続税の軽減を兼ねた活用は十分あり得そうです。
ただし、活用のためにはリスク対策も同時に必要。配偶者居住権の最大のリスクは、配偶者が配偶者居住権を金銭に替えたいと考えたときにそれを実現させにくいという点です。例えば配偶者がその後高齢者施設に入所することになっても、この配偶者居住権を金銭に替えて入所するということが難しいのです。
何故なら、配偶者居住権は譲渡できないからです。子と合意の上で居住権を消滅させて子から金銭の支払いを受けるという手はありますが、子と合意できなかったり、子がそれだけの金銭を持っていなかったりする場合は実現不可能です。
そこで生命保険です。
夫が遺言で妻に配偶者居住権を取得させ、子に配偶者居住権付の自宅を相続させるように準備します。これで妻の居住確保と相続税の軽減が実現できます。
それと同時に、妻を受取人とする生命保険に加入します。夫が亡くなれば妻は配偶者居住権と生命保険金を取得しますが、前述の配偶者の税額軽減により妻の相続税負担は無し。
しかも、保険金は受取人固有の財産という扱いで原則として遺産分割や遺留分の対象からは外れますから、現預金で遺すよりもより多くの金銭を妻は手にすることができます。妻のその後の生活費や入所費用に大いに役に立つでしょう。
これなら、配偶者居住権を金銭に替えることができなくても妻は安心です。
配偶者居住権が活用できるのは、令和2年4月1日以後の相続開始分からです。
しかし、それから考えれば良いというものではなく、今からの準備・対策の検討が大切です。
当相続サポートセンターでは、配偶者居住権も含めた改正相続法に対応した相続対策のご提案・ご支援を積極的に行っています。
まずはお気軽にご相談ください。
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